未経験でも地方移住をして農業をはじめられる?

地方移住で就農を希望する人の選択肢は、「開業する(起業型)」と「就職する(雇用型)」に分けることができます。地方移住者が農業を始める場合は、自治体から手厚い支援を受けられることも多く、未経験者でも始めることができます。自分はどちらを希望するのか、まずはよく考えてみましょう。
地方移住での就農方法1:開業する(起業型)
開業する場合は、移住先で農業研修を受けてから開業する場合が多いでしょう。研修後は、自ら土地を見つけ耕作を行います。トラックやビニールハウス、肥料、機械など、農業で必要な設備や材料は自分で揃えます。
農業を始めたばかりの頃は、設備投資で出費が多く、収入もすぐには得られません。しかし、新規就農者は自治体から手厚いサポートが受けられることが多いので、収入が安定するまでは給料の代わりとなる給付金がもらえたり、設備投資費用を一部補助してもらえたりします。
地方移住での就農方法2:就職する(雇用型)
就職する場合は、農業関係の仕事ができる会社(農業法人)に正社員として就職することで農業に携わることができます。収入が月給制でボーナスや長期休みがある場合も多いです。開業するよりリスクはありません。なかには独立支援をしてくれる会社もあるので、いずれば農業で開業したい人が修行を積むために就職するという選択肢もあります。
知ってる?農業の種類は大きく4つに分けられる

農業の種類は、大きく4つに分けることができます。
- 耕種農業(米、野菜、果物など畑作からビニールハウス栽培など)
- 畜産農業(牛・豚・鶏などを育てて出荷する仕事)
- 農業サービス業(苗を育てる、野菜や果物の選別をするなど栽培から出荷の一部を請け負う仕事)
- 園芸サービス業(植木業や造園業など)
移住先を決める時、自分がやりたいと思う農業がどの土地でできるかを基準にして選んでもいいでしょう。
就農希望者に人気の移住地域はどこ?
順位 | 都道府県 | 割合 |
---|---|---|
1 | 関東地方(山梨県、長野県、岐阜県) | 24.00% |
2 | 九州地方 | 16.40% |
3 | 東海地方 | 12.40% |
4 | 中国地方 | 11.10% |
5 | 近畿地方 | 8.10% |
上記の表は、2016年に全国新規就農相談センターが発表した「新規就農者の就農実態に関する調査結果」から、就農先の移住地として人気だった地域をまとめたものです。移住先の決め手となる理由で1番多かったのは「取得できる農地があった」で回答率が53.1%でした。農業を始めるのであれば、いい農地が見つかるかは重要なポイントですからね。農地が空いていても「すぐに作物が枯れてしまう」など訳アリ農地なこともあるので、農地選びは慎重に行いましょう。
移住先を選んだ他の理由には「就業先、研修先があった(回答率 27.7%)」「行政などの受け入れ、支援対策が整っていた(回答率 27.0%)」とあるように、上位の自治体は農業を始める際の支援制度が整っている地域だと言えます。また、就農希望者の人気移住地域で1位にランクインしている長野県や山梨県は、就農に限らず地方移住先としても人気の地域です。
就農先や農地を見つける方法は?

地方移住をして農業を始めたい場合、就農先や農地はどのように見つければいいのでしょうか。農業で具体的にやりたいことが決まっていない、移住先が決まっていない場合の選択肢もご紹介します。
自営で農業を始めたい場合
地方移住先で自営で農業を始めたい場合、農地が空いているか、どのような支援制度があるかを確認する必要があります。新規就農で使える農地があるかなどは、各自治体の移住相談窓口に問い合わせしましょう。
具体的な移住先や、やりたい農業の種類が決まっていない人は、「新農業人フェア」や「全国新規就農相談センター」、移住支援を行なっている企業や団体に問い合わせる方法もあります。移住支援を行なっている企業は「おむすビーズ」や「JOIN 一般社団法人 移住・交流推進機構」などです。そこから就農ガイダンスやセミナー、移住体験に参加することもできます。募集状況は各企業や団体のHPから確認することができますよ。
就職して農業を始めたい場合
地方移住で就職したい場合、大手求人サイト、自治体の求人マッチングサイトなどから就職先を探すことができます。求人サイトである「第一次産業ネット」は、農業求人に特化しているので、ぜひ利用してみてくださいね。
就農希望者向けの農業支援制度にはどんなものがある?

続いて就農希望者が受けることができる各種支援制度をご紹介します。農業の仕事をスタートさせる際にはある程度の初期投資が必要になるので、下記のような就農支援制度を上手く利用してください。
※下記に記載している就農支援制度は2020年5月時点での情報を元に掲載しております。各制度をご利用の際は、必ず各自治体や団体の担当窓口にお問い合わせください。
農業人材力強化総合支援事業(旧青年就農給付金)
農業人材力強化総合支援事業では、「準備型」、「経営開始型」と2タイプの支援を行なっています。「準備型」では、50歳未満の就農希望者が農業研修を受ける際にかかる費用の補助が受けられます。研修1年あたり150万円が交付され、最長2年の支援が受けられますが、研修後に就農しない場合は、交付金を返還しなければならないので注意が必要です。
「経営開始型」では、50歳未満の認定新規就農者と認められた人へ、1年あたり150万円が最長5年交付されます。認定新規就農者になるには、地方移住先の市区町村へ就農計画を提出し申請します。審査が通れば認定新規就農者として、さまざまな支援制度が受けられるようになりますよ。
青年等就農資金
青年等就農資金は長期間無利子で融資を受けることができる制度で、返済期間は17年、限度額は3,700万円です。認定新規就農者が受けられる支援制度となります。農業を始めるにあたり、必要な施設や機械の購入やリース料などが融資の対象です。申請後には審査があり、希望が通らないこともあるので注意しましょう。
農業近代化資金
農業近代化資金は、JAが行なっている支援で、農業で必要な資金を低金利で貸し付けてもらえる制度です。農業施設や土地の改良、家畜の購入や育成にかかる資金などで融資を受けることができます。借入限度額は、個人の場合1,800万円、知事特認(都道府県の基準によって定められた地域)の場合は2億円です。
借入期間は15年ですが、認定新規就農者が市区町村に申請した通りの就農計画で就農する場合は17年となります。対象者は、認定農業者(経営改善計画を提出し市区町村または都道府県に認定された農業者)、認定新規就農者、農業所得が総所得の過半を占めている人、農業粗収益が200万円以上ある人などです。
移住支援金
移住支援金は、地方移住先で就職した人を対象に、100万円以内(単身者は60万円以内)が支給される制度です。就職して農業を始めたい人は、移住支援金が対象の求人かもチェックするといいでしょう。移住支援金が対象の求人は、自治体の求人マッチングサイトで見つけることができます。
移住支援金の対象者は、「東京圏(東京都・千葉県・埼玉県・神奈川県)に在住し、東京23区に通勤している人が東京圏外に移住した人」「移住支援金対象の中小企業などに就職する人」「5年以上継続してその地域に移住する意思がある人」などがあげられます。
自治体独自の支援制度
農業は継承者が減ってきていることもあり、地方では新規農業者を積極的に受け入れている自治体があります。そのため、地方移住の新規農業者向けに、自治体独自が就農支援制度を設けている場合があるのです。具体的な自治体やその制度については、次章でご紹介します。
就農希望者向けの支援制度がある自治体は?

独自に就農支援制度を設けている自治体をご紹介します。
北海道北竜町
北海道北竜町では以下のような就農支援が受けられます。
- 農地の賃貸料1/5の補助。対象期間は5年間。
- 農地取得のために最初に借入した制度資金1/10の補助。限度額は250万円。
- 制度資金借入額(限度額2千万円)に対し、利率3.5%を超える部分の補助。
- 農地にかかる固定資産税を農地取得後から3年間補助。
- 住宅の修繕増改築費用の1/5(限度額250万円)の補助。
対象条件は、今まで「2年以上の農業経験がなく心身ともに健康である」、「22歳以上45歳未満である」ことなどです。また北海道北竜町には、就農支援だけでなく、暮らしに関する支援金制度充実しています。例えば、結婚祝金で1組5万円、出産祝金で出生児1人につき20万円、入学祝金で5万円が受け取れるなど、他にもさまざまな子育て支援がありますよ。
和歌山県有田市 AGRI-LINK IN ARIDA
和歌山県有田市ではみかん作りの支援が受けられます。有田市には「AGRI-LINK IN ARIDA」という就農支援プログラムがあり、株式会社リクルートと有田市が協力して行なっている新規就農者向けの支援です。 この就農支援プログラムには2つのコースがあり、「すぐに農業を始めたい人・結果が欲しい人」向けのAコースと、「基礎から学びたい人」向けのBコースです。それぞれ2年間のプログラムで、Bコースが終わればAコースへ、Aコースが終われば独立へ、という流れでサポートしてもらえます。
「AGRI-LINK IN ARIDA」の1番の魅力は、農地と出荷先が確保されていること、2年間地元の農家の方から技術を教えてもらえることでしょう。農業は簡単ではないと伝えながらも、本気で農業を始めたい人をしっかりサポートしてくれる制度が整っています。 就農体験も行なっており、交通費や宿泊費などは自費ですが、体験料は無料です。1泊2日〜6泊7日と体験期間も自由に選択できます。
千葉県我孫子市 我孫子市新規就農者補助金
千葉県我孫子市では、「我孫子市新規就農者補助金」という就農支援制度があります。内容は以下の通りです。
- 農地の賃借料の補助。(上限は年10万円を5年間)
- 農業で必要な施設、設備、機材など整備費の1/2を補助。(上限は5年間で50万円)
- 就農研修費を1/2補助。(上限は5年間で10万円)
- 宣伝広告費の補助。(上限は年10万円を5年間)
対象者は、我孫子市内に住所を所有する人、就農後5年未満の農業者などです。千葉県我孫子市では、農家数の減少から、農地として利用されずに放置されている農地が増えています。高齢化の背景もあり、地方移住で新規就農する若者を積極的に受け入れようと、制度利用者は随時募集しているので、利用したい場合は我孫子市の「農政課」に問い合わせてみてくださいね。
兵庫県豊岡市 豊岡農業スクール
兵庫県豊岡市では、「豊岡農業スクール」を開校しており、就農に必要な農業生産技術や経営管理能力などを学ぶことができます。「豊岡農業スクール」の研修は、基本1日8時間×5日間で実施され、期間は1年から最長3年です。
研修中は給付金を受け取ることができ1人あたり月額10万円が支給されます。対象者は「研修開始日に原則満45歳以下の人」、「市内在住者または転入者」、「将来豊岡市ないで就農を目指している人」などです。卒業したら、独立して開業するか就職するかを選ぶことができますよ。
豊岡農業スクールの取り組みを紹介します|兵庫県豊岡市公式HP
愛媛県上島町
愛媛県上島町では、就農を目的とした定住を支援しています。就農までを「ワーキングホリデー(1週間)」「お試し就業研修事業(20日間)」「インターン事業(2年以内)」の3ステップで、上島町に就農するかをじっくり検討し、インターンでは本格的な農業技術や知識を取得することができます。研修中は研修費用が支給され、ワーキングホリデーやお試し就業研修では日給5,000円、インターンでは月給10万円となります。
山口県萩市
山口県萩市では、農業をしながら田舎暮らしを満喫したい人向けの支援制度を設けています。
担い手定住促進住宅
就農希望者で住居を探している場合、3LDKで家賃25,000円/月額の住宅を提供してもらえます。また、すぐに役立つ農業技術を身につけられるよう、技術研修も受けることができます。
中核的担い手育成支援事業
農業を始める際に必要な施設や機会の準備金が一部補助してもらえます。上限は150万円で、かかった費用の1/2の額が対象です。
農業支援制度を実施している自治体まとめ

2020年4月時点で、就農支援制度を実施している自治体をまとめました。地方移住先として検討している自治体があれば、直接問い合わせしてみるといいでしょう。
北海道・東北地方で農業支援制度がある自治体
都道府県 | 市区町村 |
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北海道 | 池田町、石狩市、岩内町、雄武町、釧路市、栗山町、様似町、士別市、砂川市、壮瞥町、長沼町、名寄市、羽幌町、東川町、美幌町、深川市、三笠市、留萌市、稚内市 |
岩手県 | 奥州市、北上市、遠野市 |
宮城県 | 石巻市、栗原市 |
山形県 | 河北町、酒田市、遊佐町 |
秋田県 | 秋田市、男鹿市、上小阿仁村、仙北市、大仙市、にかほ市、能代市、八峰町、三種町、湯沢市、由利本荘市、横手市 |
青森県 | 十和田市 |
福島県 | 大玉村、喜多方市、福島県、湯川村、会津若松市 |
関東地方で農業支援制度がある自治体
都道府県 | 市区町村 |
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茨城県 | 北茨城市、桜川市、筑西市、取手市 |
埼玉県 | 秩父郡小鹿野町、蓮田市 |
群馬県 | 安中市、桐生市、館林市、前橋市 |
神奈川県 | 中井町 |
静岡県 | 伊豆の国市、伊東市、森町 |
千葉県 | 旭市、佐倉市、山武市、匝瑳市 |
栃木県 | 鹿沼市、那珂川町、那須塩原市、那須町、益子町、益子町 |
中部地方で農業支援制度がある自治体
都道府県 | 市区町村 |
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愛知県 | 設楽町、豊橋市 |
岐阜県 | 恵那市、海津市、可児市、郡上市、多治見市 |
山梨県 | 大月市、笛吹市 |
新潟県 | 糸魚川市、小千谷市、上越市、十日町市、新潟県、村上市 |
長野県 | 大町市、佐久市、諏訪市、辰野町、東御市、中野市、松本市 |
福井県 | あわら市、福井市 |
関西地方で農業支援制度がある自治体
都道府県 | 市区町村 |
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京都府 | 亀岡市、南丹市、福知山市 |
佐賀県 | 伊万里市 |
三重県 | 多気町、鳥羽市 |
滋賀県 | 日野町 |
奈良県 | 奈良市 |
兵庫県 | 朝来市、加古川市、佐用町、豊岡市 |
和歌山県 | 有田市、紀美野町 |
中国地方で農業支援制度がある自治体
都道府県 | 市区町村 |
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岡山県 | 和気町 |
広島県 | 福山市、三次市 |
山口県 | 宇部市、萩市、光市、防府市、山口市 |
四国・九州地方で農業支援制度がある自治体
都道府県 | 市区町村 |
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愛媛県 | 伊方町、上島町、西予市、八幡浜市 |
宮崎県 | えびの市 |
熊本県 | 芦北町、上天草市 |
高知県 | 黒潮町、四万十町 |
鹿児島県 | いちき串木野市 |
大分県 | 中津市、日田市 |
長崎県 | 雲仙市、飯田市 |
鳥取県 | 鳥取市、出雲市、美郷町 |
徳島県 | つるぎ町、美馬市 |
福岡県 | 糸島市、直方市、福智町 |
まとめ

農業は地方でできる魅力的な仕事の1つですが、技術や知識も必要です。また、自営業で農業を始めるのは簡単なことではありません。農業をやりたいという意欲がある人を支援する制度はしっかり用意されているので、ぜひ活用してくださいね。